
海洋生物の90%以上はいまだ未知。そして、海底の大半はいまだ地図すら存在しません。
その謎を解き明かそうとする科学者たちにとって、専門の調査船を確保する競争は激しく、お金・枠・時間すべてが限られているため、研究が進まないのが現実です。
そこで生まれたのが Yachts for Science(YFS)。海を愛するヨットオーナーやクルーと、海へのアクセスを必要とする研究者を結びつける、非営利の取り組みです。
ヨットの世界が社会に貢献するためのひとつのかたちとして、ヨットが使われていない時間を発見へ、
楽しみのための航海を、未来につながる使命へと変えていきます。

SCINTILLA MARIS は1989年、Damen Maaskant造船所にて建造された、北大西洋の過酷な漁場での操業を前提とした大型トローラーです。
同造船所が手がけた最後期の8隻のひとつであり、荒天下での航行を前提とした強靭な船体と、高い耐久性を備えた船です。
そして2023年、生まれた造船所に戻り、船体から内部構造に至るまで全面的に改修されました。
単なるリフィットではなく、「環境への配慮」と「探究」を軸に据えたエコ・エクスプローラーへと生まれ変わりました。
エコ・エクスプローラーとは、自然環境への負荷を抑えながら、遠隔海域や未踏の海へと赴くことを目的とした探検型船舶を指します。

ハイブリッド推進システムにより、SCINTILLA MARIS は完全な電動航行が可能。
航行中は極めて静かで、燃料消費も抑えられ、カーボン排出規制が設けられた海域においても問題なく運用できます。
また、ダイナミック・ポジショニングシステムにより、錨を下ろすことなくその場で安定した船位を維持することが可能です。
このため、サンゴ礁やフィヨルドなどの繊細な自然環境や野生生物への影響を最小限に抑える必要がある観測・調査活動の際に活躍します。
船内は広々と大胆かつ、コンテンポラリーなデザインが特徴です。
天窓から差し込む自然光、曲線を描く壁面、そして赤・緑・黄色のアクセントカラーが、水上に浮かぶモダンなロフト空間のような印象を生み出しています。
キャビンは用途に応じて柔軟に構成できる設計となっており、あらゆるゲストに対応できるよう余裕のあるクルールームも完備。
ラグジュアリーなゲストサービスはもちろん、科学調査や研究ミッションといった専門的な運用にも、柔軟に対応します。

ミッション:アイスランド
8月、SCINTILLA MARIS は、西オーストラリア大学の深海海洋生物学者であり、極域生態系を専門とするペイジ・マローニ博士とともに、YFS(Yachts for Science)による初のミッションに臨みました。
北アイスランドのアークレイリを出航し、壮大な景観が連なる東フィヨルドを南下。
6日間にわたる航海の末、ブレイザルズヴィークまでのルートをたどる探査航海が実施されました。


本ミッションの目的は、極域海域に潜む生物多様性を明らかにし、これまで十分に解明されてこなかった知見の空白を埋め、将来の保全戦略につなげることにあります。
船上では、試料採取からデータ解析に至るまで、科学がどのように現場で進められていくのかを間近で体験することができます。舞台となるのは、気候と自然が長い時間をかけて形づくってきた、世界でも類を見ない幻想的な極域の景観です。
航海の様子はこちらでお読みいただけます。

ヨットを所有する新たな意義
スーパーヨットのオーナーは忙しい方ばかり。ヨットを購入しても、稼働していない時間についてはオーナーにとって懸念点の一つです。
Yはそんな問題を社会的に意味のあるかたちに変換し、海の未来に資する活動へと活かすことができます。
YFSへの登録は簡潔で、船舶情報を一度共有するだけ。
運航スケジュールを尊重したうえで、適切な研究・調査ミッションが提案されます。
無理のない形で、社会に開かれた役割を担うことが可能です。
船上では、選ばれし研究者が調査や観測を行い、その成果は海洋環境の理解や保全政策の基盤となります。
オーナーは、海洋科学の発展と自然保全に直接関わる立場となり、その取り組みは将来世代へと引き継がれていきます。
また、この経験は、同乗するご家族やご友人にとっても、海と向き合う視点を共有する貴重な機会となるでしょう。
クルーにとっても、専門的な知識や現場経験を積む場となり、船舶運用の質の向上につながります。
こうした取り組みは、BOAT International をはじめとする権威のあるメディアでも紹介され、ヨットが「所有される存在」から、「社会と価値を共有する存在」へと広がっていきつつあります。

その他のミッションをご紹介
バルバドス
YFS および Blue Marine Foundation と連携し、バルバドス周辺海域の保全と持続可能な管理に不可欠なデータを収集するプロジェクトです。
得られた知見は、海洋環境を守るための政策や管理計画の基盤となります。
ヨットとオーナーの名が、地域の海を未来へ引き継ぐ取り組みの一部として刻まれる、意義深いレガシープロジェクトです。
ドミニカ共和国
ザトウクジラやマッコウクジラの重要な繁殖・出産海域として知られる、シルバーバンク海洋保護区での研究ミッションです。シルバーバンク海洋保護区とは、クジラの繁殖を守るため、研究目的以外では立ち入りが制限された世界有数の海洋保護区。
この海域への立ち入りは政府によって厳しく管理されており、特別な許可を受けた研究チームのみが活動を許されています。
科学者とともに航行し、数百頭にも及ぶクジラが繁殖する自然の姿を間近で観察できるこの機会は、極めて限られたものです。
観光では決して得られない、保全と研究の現場に立ち会う体験となります。
YFSのウェブサイトでは、さまざまな研究・保全ミッションをご覧いただけます。
所有と消費の象徴だった船は、いま、知を生み出すインフラへと変わりつつあり、多くのミッションが新たな協力を待っています。

